イタリア漫画感想『Bianca -LITTLE LOST LAMB-』 強者と弱者
表紙の雰囲気がすでに怪しい
この表紙と少しだけ見た内容に惹かれて購入。
とても好きな作品です。
あらすじ
I FORTI SOPRAVVIVONO, I DEBOLI MUOIONO
(強者は生き残り、弱者は死ぬ)
動物たちが人間のように歩いたり、話したり、文明を築いている世界。
ただし現実の動物と同じように草食動物は肉食動物に食べられるという食物連鎖は残っている。
親を肉食動物に殺されたビアンカは復讐のため、肉食動物たちを殺してまわっていた。
その旅の途中、リリィ(小鹿?)や他の草食動物との出会いによって、彼女にも少しずつ変化が現れる。
感想
とにかく主人公のビアンカが激しい。
初めから肉食動物たちを刀でバッサバッサ切り倒していく。
ただ、その姿は恐ろしいがカッコ良くもある。
作画をされている方の絵は一見さっぱりとした印象だが、キャラクターの動きの躍動感が伝わってくる。
表情にしても、主人公のビアンカは特に幅広い表情が描かれており、その時の感情やその振れ幅の大きさがわかりやすい。
物語では草食動物の逼迫した状況がとてもハードなものに感じられた。毎日肉食動物の獲物として狙われる危険があるのだから生きた心地はしないだろう。
肉食動物のように爪や牙がないから抵抗することもままならない。ビアンカはだから剣を使っていたわけだけど、どこでどうやって学んだんだろう。
ただ、肉食動物たちの世界もそう簡単ではなく、狩りを楽しんでいる者や普通に暮らしている者、それらを束ねる長など多様だった。子育ての場面なんかはどちらにも共通するところで、肉食動物が完全に悪であるという風には捉えられない。
物語は最後、ビアンカが仲間の草食動物たちを守るため肉食動物の群れを壊滅させる。そして人生には戦うだけではない、もっと価値あるものがあることを証明する旅に出る。
復讐心というよりは仲間を守るためという気持ちで戦っているようだが、容赦がない。確かに全1巻でこの問題を解決し、大団円にしようとしたらかなり都合の良い話になってしまうだろう。いくつか結末の予想はしていたが、こうなったかという感じ。個人的には好きな終わり方だった。
内容はどうあれ、フィクションにおいて自身の目的を何としても達成するというキャラは好きで、なかなか最後の戦いのような場面まで描ききることって少ないように思う。やはり最後は一般的な倫理、道徳感に沿ったというか、物分かりの良い判断、行動をすることが多い。もしくは、やってることは同じでも受取手に印象よく見せようとする。
自身のできることで最善を尽くした結果という気がするし、復讐一辺倒ではなく、新しい考え方も手に入れたあの終わりは、ただの娯楽作品として薄まらず、難しいメッセージもしっかりと伝えている。
強者と弱者について
この作品において、基本的に強者は肉食動物、弱者は草食動物だと思う。ただ、読むにつれて肉食動物が絶対的な強者とも言えない気がした。
草食動物は自然があれば食うに困らないが、肉食動物の場合食料は有限である。人間が家畜を育てたり、食べすぎて数が減ってきた動物を規制したりするように、動物が絶滅しないようにしなければ絶滅するのは自分たちである。
この物語の場合、肉食動物は草食動物がいなければ生きていけないだろう。もし、草食動物が食べられないよう抵抗し続ける、もしくはビアンカのように戦えば、肉食動物は数を減らし、食料も手に入りづらくなる。すると、どんどん肉食動物は減っていくのではないか。構造上、草食動物の割合が肉食動物より多いと考えると、もっと早く劣勢に追い込まれるかもしれない。
ビアンカという前例はどうあれあの世界の構造を変えると思う。一人で異常なほど強く、戦い方も知っている。結末を見るに、彼女が相手を滅ぼすためだけに今後も動くとも思えない。少なくとも簡単にそっちへ振り切ったりはしないだろう。
ただ、それでなくとも人間の遺構で暮らしている草食動物たちは戦い方や武器をいつか見出すかもしれない。肉食動物は狙われる危険がないから、普通に外の自然の中で生きているようだった。そうした技術に対して知識が無ければ、いずれ狩りの成功率は落ち、肉食動物は数を減らすだろう。
案外、今後のことについて考えなければならないのは肉食動物の方であり、彼らの方が弱者なのかもしれない。
人間の残した遺跡から食糧生産用の機械とか見つかれば万事解決になりそうだけどね。
『OCTOPATH TRAVELER』 懐かしくもあり新鮮でもある作品
今さらではあるけど、久しぶりにRPGをプレイして感動したので感想を書きます。
発売は2018年なので2年ほど前。当時話題になっていたし、有名な人も評価していたような気がする。ずっと気になっていたままだったが、ようやくクリアできた。
ゲーム全体のデザイン
やはり今時のゲームで、しかも大きい会社が作っているにも関わらず昔ながらのドット絵というのが初めは不思議だった。
実際にプレイしてみると昔やったゲームを思い出し懐かしくなる一方で、確実に画面の感じは変わっていた。「HD-2D」というらしいが、特に背景はドット絵なのにリアルにも感じる不思議さがある。個人的な見え方は模型やミニチュアに光のエフェクトを綺麗に当てているといった感じ。
予想以上に新鮮さが勝り、新しい場所へ行くたびに景色を楽しむことができた。
戦闘に関して、自分はあまりターン制のゲームが好きではなかったので今までも手を出すことは少なかった。それこそRPGと言えばドラクエ、FFは多くの人が通る道かもしれないが、自分はテイルズシリーズしかプレイしていなかった。それどころかポケモンもまともにやったことがない。
今回久しぶりにプレイして、アクションとは違った頭の使い方をするなと痛感した。敵も味方もしっかり技や特性を理解していないと厳しい場面が出てくる。
さらに自分の経験が少ないだけかもしれないが、キャラクターごとに使える技が若干独特というか、長所短所がかなり明確なように感じた。攻撃技の全体単体もそうだし、特に自分にしか付与できない効果は基本全体にかけたいものだったり。最初は単体だけでもレベルが上がったら全体版も使えるようになるといったこともない。これらを解決するためには他のキャラクターのサポートや別のジョブを装備する必要がある。
このゲームは設計的に他のキャラを仲間にしなくてもストーリーは進むし、特定のキャラだけ仲間にしてもいい。ただ、キャラごとのスキルで正道邪道があるように、敵の弱点を突くための武器や属性のことを考えても他のキャラクターを仲間にしていく必要が出てくる。それぞれの長所短所を工夫して戦闘するのは多少難しかったが、毎回組み合わせを考え、そして勝てた時は達成感があった。
ストーリー
映像や戦闘システムも良かったが、自分は特にストーリーに惹かれた。
特に面白いのが8人のキャラクターがそれぞれの目的を持って旅をすること、それらが他のキャラクターのストーリーと直接的に交わらないところ。
個人的なイメージでは、主人公を中心に仲間を増やし、それぞれの抱える目的や問題を旅の道中で解決、そして世界を救うといったものが一般的なRPGのストーリーだった。そこでは仲間の助けや対話が描かれ、最後には全員での協力があった。
対してこのゲームではそれぞれのストーリーが個人的なもので独立している。他のキャラを仲間にしなくてもいいというシステムもあるくらいで、基本的に主人公同士が交流するのは酒場での会話のみ。メインストーリーはそうしたそれぞれの旅を8つ集めたような感じになっている。
一本にまとめないことで、ストーリーの雰囲気が大きく変わってくるのも面白い。例えば商人トレサは全体的に明るく、夢を追いかけるストーリー。対して踊り子プリムロゼは復讐を求める終始重たい雰囲気で最後くらいしか気が休まらない。学者サイラスはキャラクター的にも飄々として好奇心に満ちた雰囲気。反対に剣士オルべリクは全てを失ってからかつての戦友との戦いへという熱い物語だった。
キャッチコピーが「旅立とう、きみだけの物語へ―」だったが、まさに主人公それぞれが自分だけの特別な旅をしている。個人とその周辺にまとまった物語はコンパクトながらキャラの心情などが丁寧に描かれどれも感動できた。
ただこれらの物語は全く繋がりがないわけではなく、敵として出てくる謎の団体や人物、キーワードなどが少しずつリンクしている。
そして、8人の旅が合わさるといつの間にか世界は救われていたということがわかる。
(あくまでメインストーリーにおいて)
メインストーリークリア時にすごいと思ったのはこのポイントで、単純に8つの話があるわけではなかった。裏に別の物語が流れていることが見えてくるにつれ、全体のストーリーが絡み合っていくのがわかる。各主人公の話は4章づつしかなくボリュームは多くないが、全てを見終わると壮大なRPGのストーリーも同時に楽しんだ気分になれる。
フェニスの門について
8人の物語の裏側で起こっていたことの後日談
メインストーリーで詳しく語られなかった部分が文章で語られる。8人の物語で阻止されたと思った計画が再び実現されそうになるのを止めに行くというもの。
ここで面白いのが主人公は何一つ喋らないこと。それぞれに関わるかなり重要な情報が明かされているが、全く反応がない。
誰が誰と旅をしたのか、その時何を言い、思ったのかはプレイヤーが決めていいということだろうか。
メインでもパーティに仲間はいるがストーリーにまるで登場しない、ただ酒場で少ないながらも会話はあるからそもそも一人旅と決めつけなくてもいい。
「旅立とう、きみだけの物語へ―」ということかもしれない。
その他良かったところ
まず音楽が圧倒的に良い。
戦闘、街、フィールドそれぞれの曲が世界に引き込んでくる。
その中でも、章終わりで流れるキャラクターのテーマ曲は物語の締めくくりを印象的に演出していて音楽の重要性を感じる。
作曲者の西木康智さんによる楽曲解説もnoteで見れる。クリエイターのこだわりが知れると余計に音楽を聴いたときの感動が高まる。
特に好きな曲はエンディングテーマ
それまでに聞いていた曲のアレンジがメドレーになっており、最後にメインテーマに繋がる。すべてのストーリーを終えて聴くと感慨深い。
キャラクターのテーマだとプリムロゼのテーマが良かった。個人的にかなり耳に残る曲。
物語も色々なものが重なって表現されていたように思う。踊り子、復讐のための旅、それまでの人生が舞台に関係づけられ、最後は舞台から降りて新しい道を進む。ダークな雰囲気の分、最後の最後で希望が見えたのは良かった。
その後がどうなったのかとても気になる。
サブストーリーもかなりの数あるがやらないのはもったいない。
誰かの行動が見知らぬ人に影響を与えていたり、日常のちょっとした出来事だったり。モブキャラにも意外な細かい設定や物語がある。
アプリで新しいゲームが来るらしいけど、どういう感じになるんだろう。また新しい物語に触れられると思うと楽しみ。
イタリア漫画『REQUIEM』の感想 全一巻なのがもったいなく感じる良作
イタリアのある書店のマンガコーナーで偶然見つけた作品です。
作者:Fabrizio Cosentino (ファブリツィオ・コゼンティーノ)
出版:SHOCKDOM
イタリアでは毎年ルッカコミックスやロミックスといったマンガイベントが開かれています。街中にマンガ専門店が数店舗見られることからも人気が高いコンテンツのように感じます。
マンガといえば日本というイメージがありますし、実際多くのマンガがイタリア語版で発売されています。一方でイタリア人が描いたマンガというのももちろんあります。日本にはよっぽどのことがない限り入ってこないであろうこうした作品を読む機会があったので感想を書きます。
海外漫画の印象
まず初めに自分の持っていた海外の漫画やアニメなどの印象について
やはりこういったビジュアルのある作品において絵柄はかなり重要だと思います。特に海外のキャラクターデザインは日本とは違った独特さがあり、そこで手に取らないという人もいるでしょう。ただ日本でも「ジョジョは絵柄がちょっと…」みたいな人はいるので国産ならいいわけでもないのか。
ただ書店やイベントなどで見てみると日本人でも馴染みやすそうな絵柄はけっこうあります。数は少ないですがフランスのマンガ(バンド・デシネ)『ラディアン』のような少年誌で連載してそうな絵柄の作品も見られます。海外の出版の今後の目標や作者たちの考えはわからないですが、もしかしたらこうした絵柄が増えていくかもしれないですね。
絵柄に壁がありそうな感じはしますが、物語に関しては国や文化の特色がよっぽど強く出ない限り受け入れらている印象があります。それこそマーベル作品なんて原作未読で映画は見ている人が多いのではないでしょうか。自分もそうですし。物語は誰が書いても面白いものは面白いということなんですかね。
マンガそのものについて一番違うと感じるのは値段の高さです。ここで紹介する『REQUIEM』もサイズはA5で白黒。日本のマンガと規格は同じだが値段は8ユーロ。これは2020年3月で日本円で955円。特別版ではなくこの値段、これは高い。しかし海外マンガはフルカラーなものも多く、大判サイズでカラーになると一冊20ユーロとか普通に見かけます。なのでせっかく面白そうな作品を見つけてもガツガツ買える値段ではないので見送ったりすることも多いです。
そのかわり、フルカラーのマンガなどは画集を買ったような満足感もあるので高くても手を出してしまうんですよね。
感想の前に
まず意味があるかはわからないですがネタバレ無しで感想を書こうと思います。
調べたところ日本語版はもちろん無く、日本のAmazonでも売っておらず、イタリア版Amazonでは売り切れ、唯一手に入れられそうなのはSHOCKDOMという出版社のサイトで取り寄せるくらい。
自分で読むには壁が厚すぎる状況です。
ただ万一ここに流れ着き、さらに自分で読んでみようと思ったのにネタバレされたら悲しいかもしれない。
なので一応ネタバレ無しで。
あらすじ
主人公は二人。
魔女と兵士です。
死んだ者の魂は、また別の者に生まれ変わるというサイクルで世界は成り立っていました。しかしある人物がこれに反し、死の無い世界、全員が不死になる世界に変えてしまいます。
魔女《NIVEH》と兵士はこれを打倒し、魂の循環する世界に戻すために旅をするという話です
感想
読み終わった印象としては、いわゆるエピソード0のような話だと感じました。
誰もが知っている有名な人、というか概念の誕生秘話です。
魔女と兵士の戦闘場面
たった一巻なので主要な登場人物もそこまで多くなく 、街やその世界にいる人、世界そのものの描写は本当に必要な部分だけという感じ。簡潔でスピード感があり読みやすいですが、要所で物足りなさを感じてしまう部分もあります。
上で述べたように絵柄になじめるかがマンガを読むうえで結構重要な要素だと自分は思いますが、この作品は個人的に好きな絵柄でした。主人公の魔女《NIVEH》や仲間の兵士のデザインはカッコいいですし、背景の書き込みや戦闘シーンの迫力など見ても満足度高いです。
それだけにボスの部下やラスボスなど、強敵との戦いをもっと長く見てみたかった。
それでも読後感は非常に良いものなのでやはり多少苦労して読んで良かったと思います。
この作者は他にも『Edge of Sky』など作画で参加した作品もあるみたいなので今度はそっちも読んでみたい。